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今回は骨折について
またまた整形外科の疾患について学んでいきましょう。今回は骨折について扱います。
骨折で今回始めて扱うのは「橈骨遠位端骨折」にしました。
橈骨ってあんま聞き慣れないですよね。またまた日本整形外科学会ではどのように紹介されてるか確認しましょう。
☆原因と病態
手のひらをついて転んだり、自転車やバイクに乗っていて転んだりしたときに、前腕の2本の骨のうちの橈骨(とうこつ)が手首のところ(遠位端)で折れる骨折です。
特に閉経後の中年以降の女性では骨粗鬆症で骨が脆くなっているので、簡単に折れます。若い人でも高い所から転落して手をついたときや、交通事故などで強い外力が加わると起きます。子供では橈骨の手首側の成長軟骨板のところで骨折が起きます。
いずれの場合も、前腕のもう一本の骨である尺骨の先端やその手前の部分が同時に折れる場合もあります。
さすがにわかりやすい!!
滑って転んで手をついたらボキッと折れちゃう骨折です。橈骨は親指側の骨で、遠位端とは体幹から遠いほうなのでこんな呼び方をするんですね。「病気が見える」シリーズでは以下のように病態説明されています。
・骨粗鬆症を有する中高年女性に多く、転倒時に手をついて受傷
そう、骨粗鬆症がある方では特に注意が必要な骨折になります。最近の超高齢社会ではメジャーな骨折といって過言ではないでしょう。「橈骨遠位端骨折」診療ガイドライン2017では
諸外国における成人(16歳以上)の橈骨遠位端骨折の年間発生率は人口1万人あたり14.5 〜 28人(男性10 〜 17人,女性18.9 〜 37人)であり,女性は男性の1.9 〜 3倍も多く発生している.
本邦における全年齢を対象とした橈骨遠位端骨折の疫学調査でも,人口1万人あたり発生率は10.9〜14人,性差も男性:女性=1:3.2で諸外国と大差ない.
橈骨遠位端骨折の発生率は加齢とともに増加し,70歳以上 では若年に比べて男性で2倍,女性で17.7倍となるものの,80歳を超えたあたりがピークとなり,以後は減少に転じる.
とのことです。女性は長生きで骨粗鬆症が多いので特に注意が必要ですね。また救急外来に受診される骨折の頻度では以下の報告があります。
救急外来における骨折の頻度
脊椎圧迫骨折>大腿骨近位部骨折>橈骨遠位端骨折(全骨折の1/6)(Ruch DS. 2006, 荻野 浩 2004)
トップ3に入る骨折なんですね。確かに受診される患者様の中でも橈骨遠位端骨折は非常に多いです。
ちなみに第2位、大腿骨近位部骨折の一つ、”大腿骨頚部骨折”に関して、
マニアックな記事も書いてます。
良ければこちらもどうぞ。
橈骨遠位端骨折の種類
それでは、この骨折にはどんな種類があるのでしょうか?メジャーな骨折であり、種類も豊富で色んな名前がついてます。
ザッとあげてもこんな感じです。
- Colles 骨折
- Smith 骨折
- Chauffeur 骨折
- Barton 骨折
というわけで順に説明していきましょう。
Colles(コーレス) 骨折
Colles 骨折とは、橈骨の遠位骨片が背側に転位し、フォークを伏せて置いたような変形が生じる骨折です。
手のひらをついて倒れたときに手関節の背屈を強制されて生じます。
発生頻度は74~87%と、橈骨遠位端骨折の中でも非常に多い骨折です。
・合併症
-
- 正中神経障害(損傷・手根管症候群)
- 腱断裂(長母指伸筋腱等)
- 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
- ①正中神経障害(損傷・手根管症候群)
骨折の影響で神経が直接損傷したり、神経近くが圧迫されることで神経症状が起こります。
特に正中神経と言われる部分が障害を起こしやすいです。場所としては掌側(てのひら)で手首のちょうど真ん中、やや母指側らへんを走行しています。
神経を直接損傷していなくても、血腫や腫脹・骨折による骨のずれ(転位)により手根管という手首で正中神経が走行している区画の内圧が上昇し圧迫され、同じような症状がでます。掌側の母指や示指・中指、環指橈側のしびれや知覚障害があったり、okサインをうまく出来ない(涙のしずくサイン・tear drop sign・perfect O sign陽性)時は強く正中神経障害を考えます。(前骨間神経麻痺とは違うので正しくは母指対立運動が困難といったほうがいいかもしれませんが)
②腱断裂(長母指伸筋腱等)
神経ではなく腱(筋肉を骨に結合する線維性組織、筋肉の先端的なもの)を損傷することがあります。
この腱が切れることによって、指の運動等の一部ができなくなることです。コーレス骨折で多いのは長母指伸筋腱といわれる腱を傷めやすいです。母指の先端が伸ばしきれないなどは要注意ですね。神経障害よりも個人的には多い印象です。(筆者の完全な個人的見解)
開放骨折などで、傷がしょぼいけど腱を確認してなくて後日上級医からめっちゃ怒られましたなんてのはどこの病院でもありそうですね、、腱断裂が縫合がどんどん困難になるので早期手術が望ましいです。
③局所疼痛症候群(CRPS)
ナンノコッチャで感じですよね、全く聞き慣れない言葉だと思います。
かんたんに言うと、怪我したあとに、それがきっかけとなって慢性的にめちゃめちゃ痛みが出るという感じです。もう少し言い方変えると、誘因となる侵害的事象(外傷・手術・疾病等)後に生じる慢性的疼痛症候群です。症状としてはたくさんありますが、主に痛覚過敏、浮腫、皮膚変色・温度異常、末梢循環障害、骨萎縮など、、、、
ー今日の臨床サポートより
骨折によって引き起こされるのもありますが、ギプス治療での固定方法でも発生する可能性があり、注意が必要です。これに関しては後述します。
・治療法、コーレス骨折の整復について
結論から言います!治療は2種類!
手術するか、しないか!です。笑
まあ実際そうなのですが、どーしたら手術しなきゃいけないか、ですね。
・ズレを整復(病院受診して、医者にズレを戻す操作をしてもらう)してから判断
・若い人・利き手・早く動かしたい人はやったほうが良い
転位が強い症例は、手術が必要な事が多いです。整復困難や不安定型の可能性が高く固定の治療(保存加療)では限界といいますが、後遺症の可能性が高くなってくるケースが少ないです。
不安定型骨折については下記の報告があります。
A. 粉砕型で転位があり、本来不安定な骨折
整復時に整復位を保つには十分な安定性がない。
関節内に及ぶ高度な粉砕がある。
高度の転位 (dorsal tilt ≧ 20°, radial shortening ≧10mm) があり、ギプス固定では整復位の保持困難が予想される 。B. 粉砕型でギプス固定後、dorsal tilt≧5°あるいは radial shortening ≧5mmの再転位を生じたもの
(佐々木孝ほか. 日手会誌 1986 ; 3 : 515-9.)
ではどのように整復をするのか、色々なご意見があると思いますが一般的な物を図示します。
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02898_07
こんな感じですね、だいたい骨折してると骨同士は噛み込んでいることが多いのでまずは腕を引っ張る。
じんわりと引っ張りましょう、、、麻酔は施設毎ですが伝達麻酔でガッツリとかしないと、痛みはあります。。
その状態で手首を、怪我したときと逆の方向に戻す操作をします。(骨膜の貫入があるので戻す操作のちょっと前に怪我してる方にあえて力を入れてからすることもあります)
こうして、転位を戻した状態で添え木での固定(U字シーネ、sugars tongs固定)をしてあげるのですが、この時に注意が必要です。
注)整復したままの形では固定しない!
これだけでは意味不明ですね、さきほど書いた整復方法では牽引したあとに、手関節を掌屈尺屈を思いっきりします。戻す操作はこのやり方で間違いないのですが、このまま手首を変に曲げたまま添え木固定してはイケマセンといけませんと言うこと。
橈骨遠位端骨折の2017のガイドラインの一文です。
Cotton-Loder肢位(手関節最 大掌屈・尺屈位,前腕回内位)は手指自動屈曲が制限されるだけでなく,手指浮腫 の増強,手関節拘縮,複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome: CRPS)などの合併症が起こりやすく,行うべきではない.
こんな形でずーっと固めていたら痛そうですよね、手首はもちろん指も動かせなくなって手首がどんどん腫れて固くなって浮腫んで、酷い時には先程書いた、CRPSになってしまうと。。
手術したくない人になんとかしてこういう固定をしてあげたことが逆効果になってしまうのです。
頑張っても整復が難しい場合は手術をしっかりオススメしてあげましょう。
整復目標は下記に示しておきます。
- 橈骨短縮:2mm 以下
- Volar tilt の減少:10°以下
- 遠位橈尺関節(DRUJ) の整復
- 関節面の1~2mm のstep off を残さず整復
毎度、読者に優しくなくてすみません。笑
これに手術のこと書き始めるとキリなくなるので今回はこのへんで。
残りの骨折はもっとかいつまんでいきましょう。
Smith(スミス)骨折
シンプルにいきます、コーレス骨折の逆です!!
手の甲から思いっきりぶつけて折ったパターンです。レントゲン画像はこんな感じです。
整復した上で治療方針を決めるのは一緒で、整復方法は牽引をしつつコーレス骨折と逆の向きに戻してあげましょう。
Chauffeur(ショーファー)骨折
chauffeur骨折は関節内骨折の1種ですね。部分関節内骨折です。
茎状突起といわれる橈骨の部分が骨折したものですね。
画像でいうと下記の部分になります。
Chauffeurとは運転手の意味で、昔クランクバーを回転させて車のエンジンをかけていた時代に頻繁に発生したのが骨折名の由来だそうです。ショフール骨折、運転手骨折とも呼ぶ方もいます。
僕自身そこまで外来診療やってきてこの骨折は診たことがありません。
時代背景もあり、昔よりもこの骨折は少ないのかもしれませんね。
ただ、上司が転倒してこの骨折で装具での治療してました、、、
関節面のstep offが著明なら手術になるんでしょうが、基本はそこまで転位しないほうが多いのかもですね。
Barton(バートン)骨折
こちらも部分関節内骨折ですね。
橈骨を横から見た時に、関節面からてのひら(掌)側か手の甲(背)側に骨折を認めます。
言葉では伝わりづらいので画像で説明します。
この骨折は関節靭帯・関節包の損傷があるため整復も難しく、徒手整復後の固定性も悪い。
どこかのお偉い先生で保存加療で治すのをメインにしてる先生でも、完全関節内粉砕骨折と掌側バートン骨折は手術じゃなきゃダメと言った噂も聞いたことがあります。
先程のショーファー骨折と比較して、こちらの骨折は比較的見かけますね。
バートン骨折の整復について
手術が必要なことが多い骨折ですが、術前及び術中の整復が必要でありその方法は知っていないとダメですね。
ややこしいことに整復方法は逆なんですね。
骨片が背側なら牽引しつつ手関節背屈で骨片を圧着。掌側はその逆で整復します。
斎藤英彦:前腕遠位端骨折.整・災外,32:1267~1278.1989.
最後に
いかがでしたか、基礎編から学ぶという記事でしたが、さわりだけでも膨大な量ですね。
もちろんこれが全てではなく、手術に関しても方法やこだわりなど色々あります。整形外科数年目が語るにはおこがましいレベルです。。汗
今回は改めての復習といいますか、基礎で有名な骨折をまとめてみました。
個人的には保存の幅が広いと実感してます、患者様一人一人の活動度や希望に応じ十分に検討し手術か保存か決める必要があると思います。ちゃんとスコアリングなどもしても良いかもしれません。
また、骨折に関してはその他の部位を扱ったり、もちろん橈骨遠位端骨折に関してもまた記載したいと思います。